旬感・千年北海道

青函トンネルを抜けて広がる、北の9都な物語

上ノ国で北の中世情緒三昧(後編)

前編はこちら

「訪問日:2020.10.20

細い山道を曲がりながら勝山館跡に向かって進んでいます。周囲はとても静かで、鳥の鳴き声と自分の足音しか聞こえません。約十数分後、木々の合間から小さい坂道が現れ、それを登ってきて、突然、眼下に広大なパノラマが展開しています。

ここが北の中世を語る重要な史跡「勝山館跡」です。

▼館内中央通りとされているこの道、まるで日本海に続く道のように見えるのです。

20年以上行われてきた発掘と調査により、住居·井戸·神社·空壕·橋·櫓など跡が発見され、往時の「中世都市」の景観を窺い知ることができました。

館跡の中央には大幅な通路が通っています。道の両側を階段状に造って住居などを建て、平地全体を柵で囲んでいます。

▼空中から見ると、勝山館跡の構造がすぐ分かるようになりますね。(画像提供:上ノ国町)

▼それぞれのポイントが分かれて展示されています。隣には解説パネルが設置され、館内での様々な暮らしぶりが蘇っています。

手前は城代の住居、奥は馬屋…身分によって建物跡の広さが異なるのを見るにつけ、中世の日常に一層興味が湧くようになりました。

更に、勝山館跡ガイダンス施設にある復元模型と現地を合わせて見ることで、550年前の景観をもっとリアルに体感できます。

ちなみに、国指定史跡·北海道遺産である勝山館跡は、2017年に「続日本100名城」に選定されました。北海道には二箇所(もう一ヶ所は函館市東部にある志苔館跡です)しかないので、道南に旅行に来ましたら、ここは絶対に見逃せません。(「続日本100名城スタンプ」は勝山館跡ガイダンス施設で押せます)

 

勝山館跡から降り、麓にある旧笹浪家住宅に行ってきました。

旧笹浪家住宅(主屋)は、代々ニシン漁で繁栄した能登屋笹浪家の住居兼仕事場として使用された建物で、北海道の日本海沿岸に今も残るニシン番屋(漁場の近くに設ける作業場兼食泊所)の原型と言われています。江戸時代末期の建物であることが認められ、北海道に現存する民家建築として最古に属します。

▼修復後の旧笹浪家住宅(主屋)。当時のニシン漁の繁栄を今に伝える貴重な建物とされ、1992年に国重要文化財に指定されていました。

▼主屋中央の通り庭を挟んで、左側が「シテンドコ」と呼ばれる使用人が住む空間、右側が「イタマ」と呼ばれる家族の居室です。「イタマ」と「シテンドコ」の床高を比べると、「イタマ」の方が約6㎝高いということです。

屋内では当時の生活を偲ばせる用品のほか、江戸時代のアイヌと和人の関わりを物語る資料や北海道で唯一の円空作の阿弥陀如来像も展示されています。

▼ニシン漁で賑わった時代、吊るされた鉄瓶から梁まで立ち上る湯気の中で、昼夜を問わず操業した漁師たちの姿がありありと目に浮かびました。

▼アイヌ民族の衣服テタラペ(上ノ国町指定文化財)。イラクサの繊維を撚った糸で織った布で仕立てた衣服で、仕上りが白いところからテタラペ(白いもの)と呼ばれています。

▼子供から大人まで気軽に楽しめるアイヌ民族衣服無料試着体験コーナー

旧笹浪家住宅は今冬期閉館中で、来年の4月下旬(毎年4月第4土曜)に再開する予定です。詳し情報はこちらのページでご参考ください。

 

旧笹浪家住宅(主屋)から出て、すぐ近くにある上國寺(じょうこくじ)本堂に一歩足を踏み込めば、中世の宗教世界に浸れます。

上國寺本堂は、松前藩初代の松前慶廣(よしひろ)が先祖の武田信広の菩提を弔うために開創したと伝えられます。開創の時期は諸説がありますが、江戸時代の記録で上國寺本堂は1560年頃に建立され、現存する寺院建築の建物として北海道で最も古いとされています。

▼国重要文化財の上國寺本堂(外観)

本堂は平成2023年にかけて半解体修理を行い、内陣(寺院の本堂内部において本尊を安置する場合)が最も整備された明和6年(1769年)の姿に復元されています。また、欄間の彫刻模様が18世紀に一般的に使用されているものであることなどから、宝暦8年(1758年)頃であると考えられています。

▼素朴な外観に比べ、なかなか華やかな内陣ですね。

面白かったと思うことは、上國寺で二つの宗派を見ることができます。当初は真言宗に属していた上國寺は、江戸時代中期より浄土宗に改宗され現在に至っています。このことから、内部には浄土宗の紋章が見えますが、外部には真言宗の特徴がいくつか残っているということです。

上國寺本堂の外観観覧は常時開放ですが、内部拝観は隣接の寺務所や上ノ国町教育委員会文化財グループまでお問い合わせください。

◆上國寺本堂に関するお問い合わせ先

  • 上ノ国町教育委員会文化財グループ
  • 電話:0139552230

 

上國寺の隣にある上ノ国八幡宮は1473年武田信広が勝山館内に館神として創建した社で、松前家13代と14代藩主の書が社宝として伝えられています。

本殿は1699年に造営され、1876年現地に移し、北海道内に現存する神社建築の中で最古とされています。

▼上ノ国八幡宮拝殿

現在本殿は拝殿奥の覆屋に安置されているため、内部は拝観できません。ちょっと残念でしたが、緑豊かな落ち着いた境内で神秘的な雰囲気を感じながら、ほっと一息つきました。上ノ国町では、今日も穏やか時間が流れています。

 

旅の最後、上ノ国町の中心部にある上ノ国調査整備センターに立ち寄りました。1995年に廃校になった上ノ国中学校を活用している調査整備センターでは、勝山館跡や直下の市街地遺跡から出土した遺物約7万点を収蔵しています。やすらぎの環境では、縄文時代から擦文時代までの土器や中世の陶磁器·鉄銅製品·銭貨などを見て、昔日への想像が膨らみました。

▼廃校となった上ノ国中学校は現在は出土品の収蔵·展示場として活躍しています。

更に、上ノ国で実際に使われた民具や2014年に廃止されたJR江差線(木古内~江差間)の資料も展示されています。古代から現代まで、上ノ国町が時代とともに進化している姿を感じることができました。

▼懐かしい昭和の香がする用品と当時の思い出を語る写真も見られます。

JR江差線·旧湯ノ岱駅周辺の案内看板

「上ノ国調査整備センター」の営業情報はこちらでご確認ください。

 

中世情緒に溢れている上ノ国町での時空の旅。

様々な場所を訪ね、自然の息吹の中で、遙かなる時空を感じながら、由緒·伝説·人物·遺跡などを掘り下げて、各時代の臨場感をより一層体感できました。

自然と歴史が共演するこの町が多くの人々を魅力し続けています。

 

※本ページ記載の情報は取材時点のものです。

 

 

 

 

 

Translate »